6月6日(木)の昼下がり、自転車を走らせて臼杵市の城下町にある
「山本鳳凰堂」さんへ、勇み足で駆けつけました。
というもの、この日はランチ…、
いえいえ(笑)、精進料理について学びに行ってきました。
ゲスト講師は、宇佐美友香さん。
USAMI finefood and cuisineを主宰されています。
臼杵市は信仰に造詣が深い町であることは
お寺さんの数やその絢爛さから見て取れます。
そんな信心深い町にある、明治5年から続く仏壇店「山本鳳凰堂」さん。
こちらでは様々なワークショップを開催しております。
特別な用事がない限り、なかなかその扉をノックしづらい世界ではありますが、こんな風にワークショップをしてくれると仏壇店も身近に感じやすいものです。
現在5代目の当主である平林真一さんと奥様の美智さんは、
まさに“ひらけた仏壇店”のご夫妻だと感じます。
愛嬌があり、話し上手で聞き上手。
お二人と話していると、ここが仏壇屋さんだと
忘れてしまうこともしばしば。
そんな仏壇店の一角で、今回開催されたワークショップのテーマは
「精進料理」でした。
今回、店主の真一さんの目の付け所がオモシロイと思ったのが、
精進料理と正食料理をテーマに掲げたこと。
その視点から講話していただいたのが、野菜をふんだんに使用し鮮やかなケータリングで人気を博している「USAMI finefood and cuisine」の宇佐美友香さん。
ここからは宇佐美さんのお話を私なりに要約してみました。
今、世界中にマクロビ、ビーガン、ベジタリアン…、いろんなジャンルが存在していますが、マクロビオティックとはそもそも正食料理のことを指すそうで、「玄米菜食」「身土不二」を掲げています。
中庸とされている玄米で体のバランスをとり、その土地でその季節に取れたものを摂取することが大切であると説いています。
生食の基礎を築いたと言われる石塚左玄氏は明治時代の医師。その後、江戸になってから桜沢如一氏によって確立されたといわれる食養法で、宇佐美さんは幼少期からこの正食を徹底されて育っています。
和歌山で育ち結婚を機に臼杵に来るわけですが、嫁いだ先が飲食関係だったこともあり、これも何かの縁だと感じ、ご自分が体得してきたものを発信していくことを使命と捉え、18年前から「蓮料理」の中で実践し、ここ最近はケータリングで提供されています。
今回の講義は、そんな宇佐美さんが実践されている正食に基づく料理の目線から、お寺さんが出している精進料理についてお話いただきました。
そもそも精進料理とは、殺生や煩悩への刺激を避けなければならない修行僧のための料理だと言われ、動物性はもちろん植物でもニラ、ネギ、ニンニク、ショウガ、ラッキョウは刺激物なので使わない。また乳製品なども使用しないなど、宗派によって規律は様々だそう。
正食料理と精進料理、なんだか似ているように感じますね。
どことなく似ている正食料理と精進料理ですが、宇佐美さん曰く、その違いは砂糖の使用にあると言います。
正食料理では、砂糖を使用することはNGとされることが多いのに対して、精進料理は砂糖の使用に関しては禁忌事項ではないようで、むしろ積極的に取り入れているようです。
なぜ精進料理は砂糖を摂取していたのか。
人間にとって「脂質」とは体の欲求を満たしてくれるものなんだそう。だからこそ修行僧には積極的に摂取してほしい栄養だったのですが、精進料理に使われる食材ではなかなか脂質を摂取することができない。というわけで、砂糖が登場するわけです。
これは興味深い。
一見同じように見えますが、要はこういうこと。
正食料理は、主に“体”を健全にするために作られる料理であり、
精進料理は、主に“魂”を健全にするために作られる料理である。
成り立ちは違えど、最終的にはきっと体も魂もどちらも「健全」になるために作られたものであることに間違いはないようです。
その2つの違いがわかったら、やることは1つ。
ココロもカラダも両方健全であればなおよし!
ということで、その2つをしっかり理解した上で、
現代版にアレンジした精進料理を宇佐美さんに創作していただいたものがテーブルに広がります。
野菜だけで仕上げた鮮やかで美しい料理たち。
野菜たちの喜びの声が聞こえて来ます。
私の食指がフライング気味に暴走しそうです!
今回用意していただいたメニューは以下のとおり。
・人参・紫大根・きゅうりの3種のナムル
・そら豆のご飯、ラディッシュ寿司、紫大根のご飯
・ヤングコーン八方だし風味
・紅くるり大根の蒸し煮
・ベビー玉ねぎの蒸し焼きバルサミコ風味
・そら豆の春巻き
・グリーントマトのダシづけ
・5種のレタスと赤キャベツのクミンナムル
・じゃがいも餅
・びわの白和え
・花豆をのせたごま豆腐
・真一さんの手打ちそば(茨城県産そば1:9割)
わたくし、夢中で食べあげました。
他のみなさんは、宇佐美さんが惜しげもなく教えてくれるレシピを熱心にメモっていました。
が、私は作るより食べたい気持ちが優ってしまい、レシピそっちのけで
味を堪能してしまいました。
印象的だったのが、砂糖はほとんど使用していないのにも関わらず、
ほのかな甘みがあったこと。
それは、野菜の甘み。
旬のものを使用し、その味を生かすための味付けに気を配っているとのこと。
参加されていた皆さんが口々におっしゃっていたのが
「野菜だけなのになんだかお腹いっぱい」という言葉。
「野菜って意外と噛む行為が多いんです。だから精進料理も少量でも多く噛むことで満腹になりやすいように作られているのだと思います」と宇佐美さん。
なるほど、精進料理の知恵を紐解くと、科学的根拠に基づいていたのですね。
そして、宇佐美さんの言葉で心に響いたのが、「ごま豆腐」のくだり。
ごま豆腐は、ごまから作ると恐ろしく大量のゴマを必要とするそう。
そしてさらに難儀なのが、すり鉢で手を止めずにゴマすりをすること2、3時間!
もしくはそれ以上だと言います。
現代ではフードプロセッサーがあるので時短できますが、もはやこの行為そのものが修行だったのだと思うと、精進料理は理にかなっているなぁと思わずにはいられません。
そして、〆は、店主真一さんの手打ちそば。
今回に合わせて、つゆはもちろん精進ダシを取られたそうです。
しいたけと昆布の旨味が存分に出ており、喉越しのよいそばとともに
全部飲み干してしまいました(笑)。
宇佐美さんの成長に欠かせなかった生食料理の文化、そして修行僧の心の支えとなっていた精進料理の世界。発生の理論や信念は違えど、共通して言えることは「誰かのため」に実践され受け継がれてきたものであるのは間違いないということ。
そんな話を会の終盤にしていたら、真一さんのお母様が一言、
「仏教の行き着く先は、“誰かを幸せにするためにあるもの”だと最近になってようやく見えてきた気がするの」と。
仏壇店を長きに渡って営まれているなかで、豊富な経験と知識から導き出された言葉に感服してしまいました。
今回の参加者には、飲食業の方や保育園の園長先生などお仕事をもつ女性の参加が目立ちました。飲食業の方は一生懸命メモを取り質問をされていました。きっと明日からお客様にこの味をご自分の手で作って伝えるのでしょう。
園長先生は、園児が芋掘りで持って帰ったジャガイモを使ってじゃがいも餅をおやつに出したいからと、給食の先生に伝えるためにメモを取っていました。
美味しいものを食べて、食べさせてあげたい人の顔を想い浮かべ、
ためになる話を聞いて、あの人に伝えてあげたいと思う。
「人のためを想う」と某企業のキャッチコピーのようになってしまうけど、何事も最終的には「誰かのため」に行き着くのだと感じました。
普段は仏教の教えを意識して生活をしている日本人はほとんどいないと思いますが、こういった利他的な想いをおのずと持てることに関しては、潜在意識のどこかにきっと教えが存在している気がするのです。
そんなことに気づかせてくれるのは、きっと展示されている盆ちょうちんや、ほのかに香るお香の匂いのせいなのか…。
美味しいだけで終わらないのが、ここ「山本鳳凰堂」で開催する所以なのかもしれません。
セレモニー的に通り過ぎるだけの仏教のことや風習も、ふと立ち止まってみんなで会話を重ねると違った視点で見えてくるものがある気がします。
さて、梅雨がきて祇園祭りが過ぎると、
お盆が来ます。
はて、お盆ってなんで8月なんだろ?
なんで3日間あるんだろ?
そもそもなんでトレイ(盆)みたいな名前なの?
そんなアホな質問にも、平林ご夫妻になら聞けそうな気がする…。
次回のワークショップも期待しております!!
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